マグネシウムの切削加工 | 比強度に優れた金属の部品製作
最終更新日:2026/8/31
本記事の要点
マグネシウムは実用金属で最も軽い比重1.74の金属だが、絶対的な引張強さはアルミニウム合金と同等かそれ以下のケースもあり、優位性は「強度÷比重」で示される比強度にある。
切削抵抗はアルミニウム合金の半分程度と小さく加工自体は容易だが、微細な切り粉が発火しやすいという安全上の理由から難削材に分類される特殊な材料である。
マグネシウム合金にはAZ31・AZ61・AZ91・ZK60などの種類があり、規格(JIS/ASTM)や合金の違いによって強度・耐食性・熱伝導率が大きく異なる。
マグネシウムは、実用金属の中で最も軽量な金属です。比重は1.74g/cm³で、同じく軽量金属として知られるアルミニウムの約3分の2の軽さです。チタンの約5分の2、鉄の約4分の1程度しかありません。融点は約650℃で、アルミニウム(約660℃)とほぼ同水準です。
金属 | 比重(g/cm³) | 融点(℃) |
|---|---|---|
マグネシウム | 1.74 | 約650 |
アルミニウム | 2.70 | 約660 |
チタン | 4.51 | 約1,668 |
鉄 | 7.87 | 約1,538 |
本記事では、切削加工におけるマグネシウムの基礎的な特徴から、番手(種類)ごとの物性比較、加工時に起こりやすいトラブルとその解決策を解説します。
マグネシウムの特徴とメリット
比強度に優れる
マグネシウムの最大の特徴は、軽さのわりに強度が高い比強度の高さにあります。ここで誤解しやすいのが、絶対的な引張強さそのものが必ずしもアルミニウムより高いわけではないという点です。実際に切削加工用の素材として流通している代表的な合金同士で比較すると、次のようになります。
項目 | マグネシウム合金 AZ31B | アルミニウム合金 A5052 |
|---|---|---|
比重 | 1.78 | 2.68 |
引張強さ | 約295MPa | 約195〜260MPa(質別Oタフ材〜H34材) |
0.2%耐力 | 約166MPa | 約90〜215MPa(質別O材〜H34材) |
伸び | 約21% | 約10〜25%(質別O材〜H34材) |
比強度の目安(引張強さ÷比重) | 約166 | 約73〜97 |
※上記は各材料メーカーの公表資料等に基づく代表的な目安値であり、実際の物性値は合金の質別(調質)・製造方法(圧延・押出等)・板厚により変動します。設計時は各材料メーカーの最新の物性表をご確認ください。
切削加工に使われる一般的な汎用グレード同士(AZ31B系とA5052系)で比較すると、マグネシウム合金は絶対的な引張強さの面でもアルミニウム合金を上回るケースがあります。ただし、これはあくまで比較する合金グレード次第であり、A6061やA7075のような高強度アルミニウム合金と比較すれば、当然アルミニウム側が優位になります。合金の組み合わせによって結論が変わるからこそ、比重で正規化した比強度で評価することが、軽量化設計における実務上のポイントになります。
高水準の熱伝導率・電気伝導率
熱伝導率・電気伝導率は、アルミニウムには及ばないものの、鉄鋼材料と比較すると高い水準にあります。
材料 | 熱伝導率(W/m・K) | 電気伝導率(対銅比) |
|---|---|---|
純マグネシウム | 約156 | 約40% |
純アルミニウム | 約237 | 約60% |
鉄(軟鋼) | 約67 | ― |
見落とされがちなポイントとして、合金化すると熱伝導率は純金属より大きく低下します。例えばマグネシウムの代表的なダイカスト合金AZ91Dの熱伝導率は約51W/(m・K)程度で、純マグネシウムの約3分の1まで低下します。放熱性能が重要な部品では、「マグネシウムだから、アルミニウムだから熱伝導率が高い」と単純に判断せず、採用する合金グレードごとの数値を確認することが必要です。
振動吸収性
マグネシウムは実用金属の中で最も高い振動吸収性を持ちます。この性質は純度が高いほど発揮されやすく、自動車のステアリングホイールの芯金や、ハードディスクなど振動を嫌う精密機器の筐体に活用されています。
耐くぼみ性
マグネシウム合金は加工硬化率が高く、衝撃を受けた際にできるくぼみがアルミニウムや鉄より小さいという特徴があります。カメラなど、外観品質が重視される小型電子機器の筐体に採用される理由の一つです。
電磁波シールド性
マグネシウム合金は電磁波シールド性にも優れます。30〜200MHzの帯域で90〜100dB程度の安定したシールド効果を発揮します。
寸法安定性
マグネシウムは比熱が小さく、熱しやすく冷めやすい性質を持ちます。150℃で100時間加熱した場合でも寸法変化量はごくわずかとされ、100℃以下ではほとんど変化しないとされています。この寸法安定性の高さから、光学部品や電子部品など精密性が求められる分野にも採用されています。
削りやすいのに難削材と呼ばれる理由
マグネシウムは、切削加工自体は非常に行いやすい金属です。切削抵抗(工具がワークを削るのに必要な力の指標)を数値化した所要切削動力指数を比較すると、次のようになります。
材料 | 所要切削動力指数(目安) |
|---|---|
マグネシウム合金 | 1.0 |
アルミニウム合金 | 1.8 |
銅 | 6.3 |
※数値が小さいほど、少ない力・短い時間で加工でき、工具摩耗も抑えられる傾向があります。実際の値は工具形状・切削条件・合金種類により変動します。
マグネシウム合金はアルミニウム合金の半分程度の力で削ることができ、加工時間の短縮や工具寿命の延長が期待できます。
なぜ難削材に分類されるのか
削りやすい一方で、マグネシウムは一般的に難削材に分類されます。これは、チタンやステンレスのように材料が硬い・熱がこもりやすいといった機械的な理由ではなく、加工時に発生する微細な切り粉が発火しやすいという安全上の理由によるものです。
マグネシウムの切り粉に着火すると、水と接触することで可燃性ガスが発生し、通常の消火方法では対応が困難になる場合があります。なお、発火リスクがあるのは切り粉のような微小な状態にある場合であり、部品として塊状になっているマグネシウム自体が引火することはありません。
加工現場で求められる安全対策
マグネシウムの切削加工を安全に行うためには、以下のような対策が必要です。
切り粉をこまめに回収し、堆積させない管理体制
加工エリアの十分な換気
水分・火気を切り粉に近づけない運用ルール
金属火災に対応した専用消火設備(一般的な水系消火器では対応できないため)
マグネシウム合金の種類
マグネシウムには純度の高い純マグネシウムのほか、アルミニウムや亜鉛、ジルコニウムなどを添加した合金があります。
合金名 | 主な添加元素(目安) | 比重 | 特徴・主な用途 |
|---|---|---|---|
純マグネシウム | ― | 1.74 | 振動吸収性が最も高い。単体での使用より合金化されることが多い |
AZ31 | Al 3% / Zn 1% | 1.78 | 展伸材(板・押出材)向け。成形性・溶接性に優れ、電子機器筐体等に採用 |
AZ61 | Al 6% / Zn 1% | 1.80 | AZ31より高強度な展伸材 |
AZ91 | Al 9% / Zn 1% | 1.81 | ダイカスト合金の代表格。鋳造性・耐食性のバランスに優れ、自動車部品・携帯電子機器筐体に多用 |
ZK60 | Zn 6% / Zr 少量 | 1.83 | 高強度。航空宇宙・自動車分野で採用例が多い |
※上記は代表的な合金における一般的な目安であり、実際の含有量・物性値は規格・製造ロットにより変動します。展伸材(板・押出材)の切削加工が中心であればAZ31・AZ61系、ダイカスト品からの削り出しが中心であればAZ91系を検討の起点にするのが一般的です。
マグネシウム材質選定上の注意点
マグネシウムは実用金属の中で最も軽く、比強度にも優れる魅力的な素材ですが、材質選定や切削加工後の取り扱いにおいて「非常に腐食しやすい」という最大の弱点を理解しておく必要があります。 設計段階で以下の腐食メカニズムを把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。
日本材と海外材で規格が異なる
マグネシウムは、日本の規格(JIS)と海外の規格(ASTM等)とで、鉄などの不純物許容量が異なる場合があります。そのため、海外規格上は同一グレードとされる材料でも、日本の規格では別材料として区別されることがあります。不純物含有量の差が、化成処理の段階で想定と異なる仕上がりに影響することがあります。
【対策】依頼時に材料の規格を指定するか、規格の違いを踏まえた材料選定・仕様確認する。
極めて高いイオン化傾向
マグネシウムは化学的に非常に活性な金属です。鉄やアルミニウムなどと比較してもイオン化傾向が著しく高く、周囲の環境と容易に反応します。金属(鉄、銅、アルミニウムなど)と接触した状態で電解質が介在すると、イオン化傾向の差によってマグネシウム側だけが選択的かつ激しく腐食する現象が起きます。例えば、マグネシウムの筐体を鉄のボルトで締結し、そこに結露が発生すると、ボルト周辺から一気にマグネシウムがボロボロに崩れていきます。
【対策】異種金属と接触する部位には、樹脂ワッシャーや絶縁コーティングを挟み、腐食を防ぐ。
不動態皮膜が脆弱
マグネシウムは大気中にさらすと表面に酸化膜が形成され、内部を保護しようとします。しかし、この膜はアルミニウムの酸化膜のように強固ではありません。 水分や塩分、さらにはpH4程度の弱酸性の液体などに触れると皮膜が容易に破壊されてしまいます。皮膜が破れると、泡を出して急速に腐食が進行してしまうため、無処理での使用はほぼ不可能です。
【対策】切削加工後、直ちに化成処理や塗装を施し、環境から完全に遮断する。
マグネシウム切削加工は表面処理までユモパーツにまとめてお任せください
マグネシウムは、軽量性・比強度・振動吸収性に優れる魅力的な材料である一方、発火リスクへの対応体制が整っていなければ安全に加工できないという制約があります。そのため、「良い材料だとわかっていても、対応できる加工業者が見つからない」というお悩みを抱える設計者の方も少なくありません。
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