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マルエージング鋼の3Dプリント | 強度と靱性を両立した特殊鋼の造形

マルエージング鋼の3Dプリント | 強度と靱性を両立した特殊鋼の造形

最終更新日:2026/7/21

本記事の要点

  1. マルエージング鋼は、低炭素マルテンサイト組織に対する時効処理(析出強化)により、相反する特性である「極めて高い強度」と「優れた靭性」を両立させた特殊鋼である。

  2. ニッケルやコバルトなどの高価な合金元素を多量に含むため材料コストは非常に高いが、航空宇宙分野などの極限環境下における重要部品として採用される。

  3. 金属3Dプリント(SLM方式)による造形が可能であり、熱処理による大幅な硬度向上や、切削加工・放電加工といった二次加工によって高精度な部品製造を実現できる。


機械部品の設計・開発において、極限の強度が求められる場面で候補に挙がる素材がマルエージング鋼です。

一般的な鋼材は硬度(強度)を上げると靭性(粘り強さ)が低下し、脆くなるというジレンマを抱えていますが、マルエージング鋼はこの常識を覆す特殊なメカニズムを持っています。本記事では、設計開発者に向けて、マルエージング鋼の基本特性から、金属3Dプリントを用いた際の物性値、さらには現場視点での課題と対策までを詳しく解説します。

マルエージング鋼とは

マルエージング鋼は、炭素をほとんど含まない(低炭素)鉄・ニッケル合金をベースに、コバルト、モリブデン、チタンなどを添加した特殊鋼です。

その名称は、マルテンサイト(Martensite)時効処理(Aging)を組み合わせた造語に由来します。一般的な鋼材のように炭素による焼き入れ硬化に依存するのではなく、柔らかい低炭素マルテンサイト組織を形成させた後、約500℃での時効処理(エージング)を行うことで金属間化合物を微細に析出させ、劇的に強度を向上(析出強化)させます。

この独自の硬化メカニズムにより、「極めて高い引張強さ」と「破壊に対する高い靭性」を高い次元で両立させているのが最大の特長です。

金属3Dプリント用マルエージング鋼の仕様と物性値

金属3Dプリント(SLM:選択的レーザー溶融方式)において、マルエージング鋼を造形した際の代表的な仕様および物性値は以下の通りです。

化学組成表

元素

化学成分(wt%)

元素

化学成分(wt%)

Fe(鉄)

Balance(残部)

Ti(チタン)

0.6 ~ 0.8

Ni(ニッケル)

17 ~ 19

Al(アルミニウム)

0.05 ~ 0.15

Co(コバルト)

8.5 ~ 9.5

C(炭素)

≦ 0.03

Mo(モリブデン)

4.2 ~ 5.2

S(硫黄)

≦ 0.01

Mn(マンガン)

≦ 0.1

Cr(クロム)

≦ 0.3

物性表

熱処理(時効処理)を施す前後で、硬度や引張強さが劇的に向上します。

項目

造形まま(As-built)

熱処理後(時効処理後)

相対密度 (%)

≧ 99

≧ 99

引張強さ (MPa)

1,090

1,930

降伏強さ (MPa)

1,000

1,890

破断伸び (%)

4

2

弾性率 (GPa)

160

180

硬度 (HB)

323

585

上記の組成および物性値は、一般的な金属3Dプリントにおける一例(参考値)であり、保証値ではありません。造形時のレーザー照射条件、粉末のロット、積層方向(Z軸方向とX/Y軸方向の違い)、熱処理の温度プロファイルなどによって実際の数値は変動します。設計の際は安全率を十分に考慮してください。

マルエージング鋼の特徴とメリット

マルエージング鋼が設計開発の現場で選定される理由は、主に以下の5点に集約されます。

圧倒的な強度と靭性の両立

航空宇宙機やレーシングカーの駆動系など、軽量化と同時に過酷な環境に耐えうる強度を持ちます。

熱処理変形が少ない

炭素を含まないため、熱処理時の寸法変化や歪みが非常に小さく、精密な部品の製造に適しています。

溶接性が良好

溶接割れが起きにくく、複雑な構造物の接合にも対応しやすい性質を持ちます。

材質選定上の注意点

優れた特性を持つマルエージング鋼ですが、実務で採用する際にはいくつかのハードルが存在します。ネガティブな側面とその解決策を把握しておくことが重要です。

材料コストが非常に高い

ニッケル(17~19%)やコバルト(8.5~9.5%)などのレアメタルを多量に含有するため、一般的なステンレス鋼などに比べて材料費が跳ね上がります。製品全体をマルエージング鋼で作るのではなく、応力が集中する最重要部位にのみ使用する。あるいは、金属3Dプリンターによるトポロジー最適化(位相最適化)を適用し、強度を保ちながら体積を極限まで削ぎ落として材料使用量を削減する設計が有効です。

難削材であり加工ハードルが高い

熱処理後は極めて硬くなるため、切削加工が困難(工具寿命の低下や加工時間の増大)になります。そのため、切削加工ではなく、金属3Dプリント(SLM方式)を活用した最終形状に近い状態での造形を推奨します。大まかな形状を3Dプリントで造形し、高精度が求められる勘合部や摺動面のみを切削加工や放電加工、研磨などで仕上げることで、加工コストと時間を最適化できます。

マルエージング鋼の主な用途

その卓越した強度と信頼性から、以下のような高度な産業分野で採用されています。

分野

主な用途例

航空宇宙分野

ロケットのモーターケース、航空機のランディングギアや駆動部品

自動車

レーシングカーのドライブシャフト、特殊なサスペンション部品

精密金型・治工具

プラスチック射出成形金型のコアピン、高応力がかかる治工具

スポーツ用品

ゴルフクラブのフェース面、フェンシングの剣など

3Dプリント後の二次加工について

金属3Dプリントで製作したマルエージング鋼造形物は、粉末を溶融させて積層するため、表面は「粉っぽいざらざらとした質感」になります。そのため、寸法精度や表面粗さが要求される部品として使用する場合は、仕上げ加工が必須となります。マルエージング鋼は、以下の後加工に広く対応しています。

加工方法

加工内容

切削加工

刃物を用いて表面を削り出し、要求される高い寸法精度や平滑な面を出す加工。ネジ切りや穴あけ、部品同士の勘合部の仕上げなどに用います。

放電加工

電気エネルギーを利用して金属を溶かしながら除去する加工。硬度が高い材料の寸法出しや、切削では刃が入らない複雑形状に適しています。

溶接

熱を加えて金属を溶融させ、別の部品と接合する加工。3Dプリントの造形サイズを超える大型部品の分割製作に適しています。

ショットピーニング

無数の小さな球体を表面に高速で打ち付ける加工。表面の質感を均一に整えるとともに、金属を叩き締めて疲労強度を向上させます。

研磨

研磨材や砥石を用いて表面のざらつきを削り落とし、滑らかに仕上げる加工。部品同士が擦れ合う摺動部の仕上げや、鏡面化に用いられます。

塗装

表面に塗料などを塗布して皮膜を形成する加工。外観を美しく仕上げるだけでなく、マルエージング鋼の弱点であるサビを防ぐ(防錆)目的としても重要です。

設計段階から「どこに後加工のための削り代(取り代)を残すか」を考慮して3Dデータのモデリングを行うことが、品質向上とコスト削減の鍵となります。


マルエージング鋼の3Dプリントはユモパーツへご相談ください

マルエージング鋼は、限界を超える設計を実現するための切り札となる素材ですが、材料費の高さと切削加工の難しさから、試作や製造のハードルが高い材質でもあります。

YUMO PARTS(ユモパーツ)では、金属3Dプリントを活用し、マルエージング鋼を用いた複雑形状の造形から、切削加工による高精度な仕上げ加工までをワンストップで対応しています。

「高強度の部品を作りたいが、切削加工ではコストが見合わない」
「3Dプリント後の寸法出しや面粗度の仕上げまで一貫して任せたい」
「他の材質(SUSやチタン)とマルエージング鋼のどちらが適しているか相談したい」

このような設計・開発時の課題をお持ちの方は、ぜひ一度ユモパーツへご相談ください。部品の用途や要求スペックに合わせた最適な工法と後加工のプランをご提案いたします。図面や3Dデータをお持ちであれば、迅速にお見積もりいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。

YUMO PARTS(ユモパーツ)のマルエージング鋼3Dプリント事例

事業内容

執筆者:湯本電機株式会社

金属・樹脂の切削加工と3Dプリントを軸に、試作・開発段階の部品加工に特化したエンジニアリングパートナー。年間76,738枚を超える図面見積実績に基づき、アルミ・樹脂から難削材まで200種類以上の材質に対応。単なる受託加工に留まらず、蓄積された膨大な加工データを背景とした「コストダウン提案」や「加工法最適化」に強みを持つ。

最短2時間の高速見積もり回答体制を敷き、大手メーカーの設計・開発部門から、学生フォーミュラ・ロボコン等の次世代エンジニアまで、難易度の高いものづくりを技術面からバックアップしている。

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