PEIの切削加工 | PEEKとの違いと物性・材質選定上の注意点
最終更新日:2026/7/27
本記事の要点
PEI(ポリエーテルイミド)は連続使用温度170℃、ガラス転移温度217℃前後を持つ非晶性スーパーエンジニアリングプラスチックである。
非晶性樹脂の中では耐薬品性がトップクラスだが、塩素系溶剤やケトン系溶剤、強酸・強アルカリには耐性が低く、加えてノッチ感度が高く衝撃に弱い、摩耗しやすいという弱点も併せ持つ。
耐熱温度はPEEKよりおよそ70℃低いが、価格はPEEKより抑えられるため、170℃程度までの高温環境下でコストと性能のバランスに優れた材質となる。
PEIの切削加工が向いている部品とは
PEI(ポリエーテルイミド)は、170℃程度までの高温・高絶縁・高精度が求められる部品において、PEEKに迫る機械的性能をより抑えたコストで実現できるスーパーエンジニアリングプラスチックです。医療機器の滅菌治具、半導体関連の絶縁部品、電気・電子部品の構造材などで広く採用されています。
一方で、240℃を超える連続使用環境や、強い摺動性能・より広範な耐薬品性が必須となる用途では、上位互換となるPEEKの検討が必要です。逆に90℃程度までの使用条件で足りるのであれば、POMやMCナイロンといった汎用エンジニアリングプラスチックの方がコストパフォーマンスに優れます。
PEI(ポリエーテルイミド)とは
PEIは、非晶性の熱可塑性樹脂に分類されるスーパーエンジニアリングプラスチックの一種です。分子構造中にエーテル結合とイミド結合を併せ持つことからこの名称で呼ばれています。エーテル結合が切削加工のしやすさに寄与する一方、イミド結合が耐熱性と機械的強度を支えており、この両立がPEIの特徴です。
外観は琥珀色の透明樹脂で、強化グレードでは半透明〜不透明の茶色・グレー・黒色になります。
PEIの物性
項目 | 単位 | PEI(非強化グレード) |
|---|---|---|
比重 | - | 1.27〜1.28 |
引張強さ | MPa | 100〜115 |
曲げ弾性率 | GPa | 3.0〜3.5 |
ノッチ付きアイゾット衝撃強さ | J/m | 25〜55 |
ガラス転移温度 | ℃ | 215〜217 |
荷重たわみ温度(1.8MPa) | ℃ | 200〜204 |
連続使用温度 | ℃ | 170前後 |
吸水率(24時間) | % | 0.25 |
線膨張係数 | ×10⁻⁵/℃ | 5.5〜6.0 |
体積固有抵抗 | Ω・cm | 10¹⁵以上 |
絶縁破壊強さ | kV/mm | 28〜33 |
酸素指数 | - | 47以上 |
難燃性(UL94) | - | V-0 |
※上記数値は一般的なグレードにおける代表値の一例であり、メーカーやグレードによって変動します。実際の設計・材質選定にあたっては、必ず採用予定メーカーの最新版物性表で数値を確認してください。
PEIの特徴とメリット
PEIは、数ある樹脂材質の中でも優れた特性をバランス良く兼ね備えている点が最大のメリットです。設計・開発の現場でPEIが選ばれる主な理由は、以下の通りです。
優れた機械的強度
非強化グレードでもPEEKに匹敵、あるいはそれをやや上回る引張強度を持ちます。
高い耐熱性
連続使用温度170℃前後、ガラス転移温度217℃前後と、幅広い温度域で機械的性質が安定しています。
優れた耐加水分解性
熱水・蒸気に対する耐性が高く、繰り返しの蒸気滅菌(オートクレーブ処理)に対応できます。
優れた寸法安定性
吸水率・線膨張係数が低く、温度変化や吸湿による寸法変化が起こりにくいため、精密部品に適しています。
優れた電気絶縁性
表面抵抗・体積固有抵抗(10¹⁵Ω・cm以上)がともに高く、幅広い温度・周波数帯域で安定した絶縁性能を発揮します。
難燃性・低発煙性
樹脂単体でUL94 V-0の難燃性を満たし、燃焼時の発煙・有毒ガス発生量も少ない材質です。
優れた耐放射線性・耐候性
紫外線や放射線滅菌を繰り返す環境にも対応できます。
PEIとPEEK・POMの物性比較
項目 | PEI(標準グレード) | PEEK(標準グレード) | POM(ホモポリマー) |
|---|---|---|---|
樹脂タイプ | 非晶性 | 結晶性 | 結晶性 |
引張強さ(MPa) | 100〜115 | 90〜110 | 約75 |
連続使用温度(℃) | 170前後 | 240〜250 | 90前後 |
耐薬品性 | 非晶性樹脂の中では最高水準 | 非常に高い(濃硫酸等を除く) | 良好(強アルカリを除く) |
耐摩耗性 | 弱い(改良グレードで補完可) | 標準〜良好(摺動グレードあり) | 優れる(自己潤滑性) |
難燃性の目安(酸素指数) | 47以上・V-0 | 高い・V-0 | 15・易燃性 |
価格帯の目安 | 高価(PEEKより安価) | 最も高価 | 安価 |
※本表は各材質の代表的な非強化グレードを比較した一例です。実際の性能はグレードや加工条件によって変動するため、参考値としてご活用ください。
PEEKはPEIよりも耐熱性・耐摩耗性・耐薬品性の面で上位に位置しますが、価格は大幅に高くなります。170℃程度までの使用温度で機械的強度・絶縁性・寸法安定性が確保できれば、PEIはPEEKに近い性能をより抑えたコストで得られる有力な選択肢です。逆に90℃程度までの使用環境であればPOMやMCナイロンで十分なケースも多く、要求スペックに対してオーバースペックにならないための見極めが重要です。
PEIのグレード一覧
グレード | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
標準グレード | 透明琥珀色、バランス型 | 一般部品、絶縁部品 |
ガラス繊維強化グレード | 剛性・寸法安定性が向上、線膨張係数が低下 | 半導体治具、構造部品 |
医療用グレード | FDA適合・USP Class VI準拠 | 滅菌治具、医療機器部品 |
帯電防止・導電グレード | カーボン等の添加により表面抵抗を制御 | 静電気対策部品、半導体搬送治具 |
材質選定上の注意点
ノッチ感度が高く、衝撃に弱い
PEIはノッチなし条件でのアイゾット衝撃値は比較的高い一方、ノッチ付き条件では値が大きく低下するノッチ感度の高さを持ちます。これは切削加工において、シャープなコーナーやアンダーカットがそのまま応力集中源となり、輸送中のわずかな衝撃や締結時のトルクでも欠け・割れの起点になり得ることを意味します。設計段階でコーナーに十分なRを確保することが対策となります。
耐摩耗性が低い
標準グレードは摺動部品にはあまり適していません。摺動用途で検討する場合は、摺動性を改良したグレードを選ぶか、耐摩耗性に優れるPOMやMCナイロンとの比較検討をおすすめします。
耐薬品性には薬品ごとの注意が必要
非晶性樹脂の中ではPEIの耐薬品性は高い部類に入り、弱酸・弱アルカリ、アルコール、油脂類には比較的強い耐性を示します。ただし、塩素系溶剤(メチレンクロライドなど)、芳香族炭化水素、ケトン系溶剤、強酸・強アルカリには耐性がなく、これらに触れると割れや微細なひびが発生することがあります。洗浄剤・薬品を使用する環境では、必ず対象薬品との適合性を確認してください。
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「この部品はPEIで十分か、PEEKが必要なのか」「摺動部にはどのグレードが適するか」といった材質選定の判断は、実際の使用温度・薬品環境・荷重条件によって変わります。
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