チタンの3Dプリント | SLM方式の特性と設計のポイント
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本記事の要点
チタン合金Ti-6Al-4Vを用いた金属3Dプリント(SLM方式)は、造形直後の引張強度が切削材を上回ることが多い一方、伸びや靭性は造形方向・熱処理の有無によって大きく変動する。
SLM方式はラティス構造や中空・複雑形状を一体造形できる設計自由度が強みだが、造形直後の表面粗さや穴・ネジの精度は切削加工に劣るため、多くの場合は追加工が前提になる。
チタンは材料単価が高いため、切粉が多く出る切削加工よりも必要な部分にのみ材料を盛るSLM方式の方が材料歩留まりで有利になるケースがあり、形状の複雑さと数量を踏まえた工法選定がコストを左右する。
チタンは軽量・高比強度・高耐食性を備えた金属材料で、SLM方式の3Dプリントでの造形で切削加工では難しい複雑形状や軽量化構造を実現できます。一方で、造形直後の表面粗さや寸法精度には限界があり、多くの部品で二次加工が前提になります。本記事では、チタンの3Dプリントに特有の物性値の目安、設計上の注意点、切削加工との使い分けについて解説します。
3Dプリントにおけるチタンとは
チタンの金属3Dプリントでは、64チタン(Ti-6Al-4V)が広く使用されています。強度を最優先する用途では64チタンが選ばれる一方、延性や生体適合性のシンプルさを優先する医療用途などでは、純チタン(CP-Ti、JIS1種・2種相当)が選ばれることもあります。
代表的な造形方式はSLM方式です。金属粉末を数十µm単位の薄い層状に敷き詰め、レーザーで選択的に溶融・凝固させる工程を繰り返すことで、複雑な3次元形状を直接造形します。
チタンは常温では表面に緻密な酸化皮膜を形成し高い耐食性を示しますが、SLM方式のように高温で溶融させる工程では、大気中の酸素や窒素と反応しやすくなります。特に窒素と反応すると硬く脆い化合物が生成され、機械的特性を損なう恐れがあるため、造形時は高純度アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で、酸素濃度を厳密に管理する必要があります。
チタン3Dプリントの特徴とメリット
比強度の高さを活かした軽量化設計
質量あたりの強度(比強度)が高いチタンの特性は切削加工でも活かされますが、SLM方式では応力のかかる部分にのみ材料を配置するトポロジー最適化や、内部を格子状にくり抜くラティス構造との組み合わせにより、無垢材の削り出しでは実現しにくいレベルまで軽量化を追求できます。
切削加工では困難な複雑形状・内部構造の一体造形
SLM方式は下から積み上げるように造形するため、切削工具が届かない内部流路やアンダーカット形状、複数部品を組み合わせていた構造の一体化にも対応できます。溶接レスの一体構造として造形できる点も特徴です。
材料歩留まりの向上
チタンは素材そのものの単価が高い材料です。切削加工では形状によっては素材の大部分が切粉として廃棄されますが、SLM方式は必要な部分にのみ材料を盛って造形するため、材料の使用効率(歩留まり)を高めやすい特徴があります。
Ti-6Al-4V/SLM方式の物性値の目安
項目 | 目安の数値 | 備考 |
|---|---|---|
比重 | 約4.43 g/cm³ | 相対密度99.5%以上(緻密化)を前提とした値 |
引張強度(Rm) | 造形直後:約1,100〜1,300 MPa/応力除去焼鈍後:約1,070〜1,130 MPa | 造形方向(垂直/水平)や積層条件によって変動 |
0.2%耐力(Rp0.2) | 造形直後:約1,000〜1,170 MPa/熱処理後:約950〜1,030 MPa | 同上 |
破断伸び | 造形直後:約6〜15%/熱処理後:約12〜17% | 造形直後は針状のα′マルテンサイト組織のため、伸びが低下しやすい |
弾性率(ヤング率) | 約110GPa前後 | 切削材とほぼ同等 |
表面粗さ(Ra、as-built) | 約5〜20 µm程度 | 造形時の姿勢(上向き面/下向き面)により変動し、下向き面はより粗くなる傾向 |
※上記の数値は、メーカーの公表データや技術文献に基づく一般的な目安であり、保証値ではありません。実際の物性は、使用する装置・造形パラメータ・造形方向・熱処理の有無によって大きく変動するため、量産設計や強度計算に用いる際は、必ず造形を依頼する製造元が保有する実測データをご確認ください。
3Dプリントにおけるチタン選定上の注意点
① 機械的性質に異方性がある
SLM方式は一方向にレーザーを走査しながら層を積み重ねていくため、積層方向(Z方向)と積層面内方向(XY方向)とで、強度や伸びの値に差が生じることがあります。上記の物性表で「垂直」「水平」の数値に幅を持たせているのはこのためです。荷重がかかる方向を踏まえて造形の向きを検討することが、狙った強度を確保する上で重要です。
② 表面粗さと寸法精度には限界がある
SLM方式は粉末粒子が部分的に溶けて表面に残るため、造形直後の表面はざらついた質感になり、表面粗さはRaで数µm〜十数µm程度になります。また、熱収縮の影響で穴の内径は切削加工に比べて小さめに仕上がる傾向があり、半径方向で0.1〜0.2mm程度小さくなることも珍しくありません。同様に、造形したネジ穴は精度・強度ともに切削加工に劣るため、そのままでは実用に耐えないケースが多くあります。図面上でH7公差やねじ精度が求められる箇所は、造形後の追加工を前提とした設計が現実的です。
③ 残留応力による反りや割れのリスク
レーザーによる局所的な急速加熱・冷却が繰り返されるSLM方式では、造形物内部に大きな残留応力が蓄積します。この応力を逃さないまま造形を終えると、造形中の反りや、ベースプレートからの取り外し後の変形・割れにつながる恐れがあります。そのため、造形時にはサポート構造で形状を保持しながら応力を分散させ、造形後は応力除去焼鈍を行うことが一般的です。薄肉形状や片持ち構造が多い設計では、あらかじめシミュレーションで変形量を予測し、形状を補正しておく開発事例もあります。
造形後の二次加工で押さえるべきポイント
SLM方式で造形したチタン部品は、多くの場合、切削加工による追加工を組み合わせることで、設計要求を満たす精度に仕上げます。代表的な二次加工には、以下のようなものがあります。
二次加工の種類 | 目的・内容 |
|---|---|
穴あけ加工(H7公差など) | 造形時に縮小した穴径を、切削加工でH7(±0.01mm程度)などの高精度公差に仕上げる |
ねじ加工 | 強度・精度が不足しがちな造形ねじ穴に対し、下穴のみ造形し、タップ加工で仕上げる |
ヘリサート加工 | タップ加工だけでは強度が不安なねじ穴に、ヘリカルコイルインサートを挿入して補強する |
皿ザグリ加工 | 皿ビスが綺麗に収まるよう、ザグリ深さを切削加工で微調整する |
表面仕上げ(鏡面磨きなど) | 造形直後のざらついた表面を、鏡面磨きなどにより滑らかに仕上げる |
寸法仕上げ | 熱収縮による誤差を、切削加工で公差内に追い込む |
こうした後加工の要否をあらかじめ図面に織り込んでおくことで、造形後の手戻りや、二次加工分のリードタイム増加を最小限に抑えることができます。
チタンの3Dプリントと切削加工、どちらを選ぶべきか
チタン部品の製作方法としては、SLM方式による3Dプリントのほか、丸棒や板材から削り出す切削加工も選択肢になります。どちらが適しているかは、形状の複雑さや必要な精度、生産数量によって異なります。
比較項目 | SLM方式(3Dプリント) | 切削加工 |
|---|---|---|
得意な形状 | ラティス構造、内部流路、中空構造など複雑形状 | シンプルな形状、平面・穴の高精度加工 |
材料歩留まり | 比較的高い(必要な部分にのみ材料を使用) | 形状によっては素材の大部分が切粉になる |
表面粗さ(未処理時) | 粗い(ざらざらした質感) | 滑らか(条件次第でRa数µm以下も可能) |
寸法精度 | ±0.1〜0.2mm程度の誤差が生じやすい | 高精度(公差数µm〜数十µmオーダーも可能) |
ねじ・穴の仕上げ | 二次加工が前提になることが多い | 造形工程だけで高精度に仕上げやすい |
少量・試作への対応 | 形状が複雑なほど有利 | シンプルな形状であれば短納期・低コストになりやすい |
複雑な内部構造やラティスによる軽量化が求められる部品はSLM方式が有利ですが、平面精度やねじ穴などが主体のシンプルな部品では、切削加工の方がコスト・納期の両面で優れるケースも少なくありません。SLM方式で形状の自由度を活かしつつ、精度が必要な箇所のみ切削加工で仕上げる併用が現実的な選択肢になります。
なお、チタンの切削加工そのものの特徴や注意点(工具摩耗、切り粉の発火リスクなど)については、「チタンの切削加工|比強度に優れた難削材の精密切削加工」で詳しく解説しています。
よくある質問
Q. チタンの3Dプリント(SLM方式)の強度はどのくらいですか? A. 代表的なTC4(Ti-6Al-4V)の場合、造形直後の引張強度は概ね1,100〜1,300MPa程度で、鍛造材の代表値(約900〜1,000MPa程度)を上回ることも珍しくありません。ただし伸びは低下しやすいため、用途に応じて応力除去焼鈍などの熱処理を組み合わせます。
Q. 3Dプリントしたチタン部品に二次加工は必須ですか? A. 図面上でねじ穴やはめあい公差(H7など)が指定されている箇所、あるいは滑らかな表面が求められる箇所については、切削加工による二次加工を前提に設計することが一般的です。造形だけで全ての精度要求を満たすのは難しいためです。
Q. チタンの3Dプリントと切削加工はどちらが安く仕上がりますか? A. 一概にどちらが安いとは言えません。ラティス構造や中空構造など複雑な形状であれば3Dプリントが有利になりやすく、逆にシンプルな形状であれば切削加工の方が短納期・低コストになるケースが多くあります。形状と数量を踏まえた比較検討が必要です。
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