航空宇宙部品における3Dプリント活用のメリット
最終更新日:2026/7/4
本記事の要点
航空宇宙部品特有の要件(低アウトガス放出性、微細な表面粗さ、MIL規格等の材質証明)をクリアする3Dプリント技術と材質選定が不可欠
3Dプリントは切削加工では困難な複雑形状の造形に加え、内部のスパース構造(空洞化)による大幅な軽量化が可能となり、打ち上げコスト削減に直結
強度を担保する金属材質の3Dプリントのほか、低アウトガス性と高耐熱性を備えたPEKKやULTEM1010などの高機能材質が航空宇宙分野で活躍
自動車やロボット産業をはじめ、幅広い設計開発の現場で活用が進む3Dプリント。過酷な使用環境下での高い精度と強度が求められる航空宇宙分野においても、重要な部品製作メソッドの一つとして利用されています。
本記事では、人工衛星やロケットの開発に取り組む設計開発者の方へ向けて、航空宇宙部品に求められる条件や、3Dプリントで得られる設計上のメリット、そして宇宙環境に適した材質について解説します。
宇宙部品に求められる3つの厳しい条件
人を乗せて安全に飛行し、真空・極温環境の宇宙空間で確実に機能し続けるために、宇宙機器周辺の部品には一般的な産業用部品とは異なる極めて高い基準が設けられています。
1. 低アウトガス放出性(コンタミネーションの防止)
樹脂などの有機材料を使用する場合、低アウトガス放出性が必須条件となります。アウトガスは、真空度が高く温度変化の激しい宇宙空間において、材料内部に含まれる水分や有機物が気化し放出される微量ガスです。
このアウトガスが周辺機器に付着すると、電子部品の絶縁不良や光学部品の性能低下といった汚染(コンタミネーション)を引き起こすリスクがあります。機械本体の故障だけでなく、宇宙空間そのものの汚染を防ぐためにも、アウトガス放出基準をクリアした材料選定が設計要件に組み込まれます。
2. 徹底した表面粗さの管理
ロケットや人工衛星の発射時には、強烈な重力加速度と激しい振動が発生します。この際、部品の表面に粗さや微小な傷が残っていると、他の部品と摩擦を起こし切粉(金属粉など)が発生する原因となります。
発生した切粉は、アウトガスと同様に精密機器に侵入し、ショートや絶縁不良などの重大な故障を招きます。そのため、バリやカエリを完全に除去し、極めて滑らかな表面状態を担保することが求められます。
3. MIL規格等の取得材質と証明書の付与
宇宙部品は、特定の難燃性や耐久性、耐放射線性を満たしていることを客観的に証明する必要があります。そのため、アメリカ国防総省が定めるMIL規格や、航空宇宙材料仕様であるAMS規格などに準拠、あるいは認証を取得した材質が指定されるケースが一般的です。設計開発においては、これらの材料証明書(ミルシート等)や検査成績書を発行できる加工・造形元を選ぶことが重要です。
宇宙機器部品を3Dプリントで製作する設計上のメリット
現在、高い寸法精度や材質選択の幅広さから、航空宇宙部品は切削加工による製造が主流です。しかし、切削加工の限界を超えるアプローチとして、3Dプリントが以下の理由から高く評価されています。
切削加工では不可能な「複雑形状」の実現
3Dプリントは材料を層状に積み重ねていく積層造形技術であるため、工具のアクセスが届かないアンダーカット形状や、湾曲した中空パイプ状など、切削では物理的に不可能な複雑形状を一体で造形できます。これにより、複数部品の組み立て(アセンブリ)を一つの部品に統合でき、設計の自由度が飛躍的に向上します。
トポロジー最適化・スパース構造による「大幅な軽量化」
宇宙空間へ物資を輸送するコストは、1kgあたり約100万円にものぼると言われており、宇宙部品における軽量化は最重要課題の一つです。
切削加工では表面からの肉抜きに留まりますが、3Dプリントであれば、強度が不要な内部構造を網目状の空洞にするスパース構造(ラティス構造)や、充填率(密度)の細かな調整が可能です。強度を維持しながら極限まで軽量化を図るトポロジー最適化設計の恩恵を、最もダイレクトに受けられる製造方法です。
宇宙機器部品開発で活躍する3Dプリント技術と材質
金属3Dプリントと二次加工のハイブリッド
宇宙部品の多くは高い剛性が求められるため、金属粉末をレーザーで焼結する金属3Dプリントが主流となります。FDM(熱溶解積層)方式などの樹脂造形と比較して金属の結合力が高く、高強度な造形が可能です。
ただし、粉末焼結という特性上、造形後の表面にはザラつきが残ります。そこで造形後にマシニングセンタ等で切削加工(二次加工)を施し、宇宙基準の表面粗さに仕上げるハイブリッドな加工プロセスが必須となります。
宇宙規格をクリアする高機能樹脂の活用
樹脂パーツであっても、宇宙空間の使用に耐えうるスーパーエンジニアリングプラスチックが3Dプリントで利用可能です。代表的な2種類の材質を紹介します。
PEKK(ポリエーテルケトンケトン)
切削材として最高峰の性能を誇るPEEKと似た分子構造を持つ材質です。圧倒的な強度、耐摩耗性、耐薬品性に加え、宇宙部品に不可欠な低アウトガス放出性を備えています。米ボーイング社からの認証も受けており、航空宇宙産業の最前線で採用されています。
ULTEM 1010(ポリエーテルイミド)
FDM方式で扱える3Dプリンター材質の中で最高クラスの耐熱性(約216℃)を誇り、優れた耐薬品性と低アウトガス放出性を兼ね備えています。民間航空機の難燃性基準(FAR 25.853)もクリアしており、軽量化が求められる非構造部品やダクト周辺の部品に最適です。
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